アニマルクリニックフロンティア - 記事一覧
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2025.04.01 |
令和7年度狂犬病予防接種実施中
![]() ![]() 昨年はブログにて案内することを忘れておりました。 毎年の事ですが、当院は札幌市小動物獣医師会は数年前に退会している影響で、封書の中にある狂犬病予防接種が受けられる病院リストには記載がありません。リストに載っていないだけで狂犬病予防接種の実施は普通に受けることができます。 予防接種でのご来院時にフィラリア予防やマダニ予防などの外部寄生虫への予防薬処方も行うことも可能です。 本年度の狂犬病予防注射接種もすでに可能となっておりますので、早めのご予約をお願いします。 注射料¥2690+注射打済票交付手数料¥700 = ¥3390 です。 札幌市以外にお住いの方には注射料¥2690 です。別途、自治体へ申請する際に注射打済票交付手数料がかかります。 初めての接種する場合は、登録手数料¥3200が加算されますので、合計¥6590 です。 以下、毎年ほぼ同じ内容ですが、狂犬病予防注射に関するお知らせです。 狂犬病は人獣共通感染症であることから、生後90日齢以上の犬を飼われる方は年1回の予防接種の義務が発生致します。(狂犬病予防法) ただし、各自治体に登録をしてないと狂犬病予防注射のお知らせは届きません。ですので、まだ登録をしていない場合は、札幌市であれば各区の担当課、または市内の病院にて登録を行うことが可能です。 予防注射の実施期間は、4月~6月末までとなっておりますが、あくまで集計上の問題ですので、それ以降でも接種は可能です。行政からはその期間に接種するように指示が来ていますが…。実施期間内に打たれている場合は、昨年と同じ時期で宜しいと思われます。 狂犬病予防注射は、飼主様から費用を一時お預かりして代行納入する行政管轄業務のためクレジットカードでのお支払いは出来ませんので、ご注意願います。 狂犬病予防接種時の注意点をいくつか載せますので、ご一読願います。 ①狂犬病と混合ワクチンの同時接種はできません。 狂犬病と混合ワクチンの同時接種でも抗体価はあがるようなのですが、アレルギーを起こしてしまった際に、どちらで反応してのかがわからない為、別々に接種することを強く推奨します。 ②体調が悪く、病気の治療中の場合は接種できません。回復するまで延期になります。 ③混合ワクチン(生ワクチン)を接種している場合、4週間以上離さないと狂犬病のワクチンは接種できません。狂犬病ワクチンを打ったあと、1週間以上離していただければ混合ワクチンの接種は可能です。 ④過去に狂犬病ワクチンにてアレルギーを起こしたことがある場合は避けた方がよいです。また、過去にアナフィラキシーショックを起こした場合は接種できません。 ⑤過去にてんかん発作(1年以内)を起こしている場合は、慎重投与になりますので必ず申告して下さい。 ⑥自己免疫性疾患治療の為に免疫抑制剤の投薬を行っている場合は、接種をお勧めしておりません。 当院は、狂犬病予防注射も予約制になっておりますので、事前にご予約をお願い致します。 予約外での接種も可能ですが、診察の合間に行う形になりますので待ち時間が発生いたします。4月~6月は診察時間に余裕がない場合が多々ありますので、その際は別の時間帯、または後日に予約を入れていただく形を取らさせていただきております。 何度もアナウンスしておりますが、札幌市からの委託業務先である札幌小動物獣医師会に当院は所属しておりません。その為、病院窓口での狂犬病予防注射の注射済票や鑑札票の即時発行が行えません。 予防注射は、平常通り接種可能です。 委任状に署名をいただく必要がありますので、狂犬病予防注射を接種する前の身体検査時に書類をお渡ししますので、ご記入をお願いします。後日、動物管理センターにて登録手続きの代行を行い、発行された注射済票を次回来院時の際に直接お渡し、または郵送いたします。注射済票の院内での保管は1年間のみになります。1年以上過ぎてもご来院がない場合は、個人情報を保護した状態で適切に処分致します。 手続きまでに2〜3週間ほどかかりますので、会計時に予防注射証明書を発行しお渡し致します。 診察の際に、次回来院時に受け渡しをするか、郵送(有料)するかの確認をしますので、宜しくお願いします。 尚、10月以降は登録代行を行っておりませんので、飼主様が直接、各市町村の窓口にて手続きを行ってもらってください。また、証明書に実施日時と動物病院名・獣医師名が記載されておりますので、証明書は処分せず、そのまま保管してください。 後日、登録代行した再に返却された用紙には鑑札または注票番号のみが記載されます。併せて証明書となります。 ご協力の程、宜しくお願い致します。 |
2025.03.30 |
本日の診察時間変更のお知らせ
![]() ![]() 本日は都合により、診察時間が下記の通り変更となります。 9:00~12:00 / 午後休診 突然の事で、大変ご不便をおかけいたしますが、宜しくお願いします。 |
2025.03.25 |
猫の慢性歯肉口内炎
![]() ![]() 定期的に更新すると云っておきながら、全く更新できていないブログの更新です。 1つの内容を書くのに1-2カ月かかります・・・。最近、Evidence、Evidenceと界隈がうるさくて… 今回は臨床獣医師の大半が経験している猫の慢性歯肉口内炎に関して情報をまとめてみました。 治療内容に関して。国内では行っていない、行えない治療方法もあります。 【猫の口内炎とは】 【病因】 猫の口内炎に関連する感染因子には、猫ヘルペスウイルス(FHV-1)、猫カリシウイルス(FCV)、猫白血病ウイル(FeLV)、猫免疫不全ウイルス(FIV)などのウイルス、ならびにバルトネラ・ヘンセラ等の特定の細菌が含まれます。 罹患した猫の多くは(一部の研究では最大100%)、猫カリシウイルス(FCV)の慢性キャリアです。 【臨床症状】 最も直接的な臨床症状は、口を開けたときの激しい痛みです。 空腹の猫は、食べ物に近づいたときに接近回避行動を示すことが多く、不快感を予期して逃げ出すことがあります。症状が重度で慢性的な場合は、体重減少が顕著になることがあります。 この病気はゆっくりと進行し、病変が重篤になるまで認識されない場合があります。下顎リンパ節の腫脹が存在する場合があります。 痛みのために口腔内の適切な検査ができないことがよくあります。 【診断】 炎症が歯の周囲の歯肉に限定されている場合は、歯肉口内炎ではなく、歯肉炎または歯周炎の診断である可能性が高くなります。 口腔検査では、口蓋舌溝またはその外側の尾側口腔の両側に粘膜炎がみられることがあります。 症状が進行すると、猫はひどい不快感から口を開けることを強く嫌がります。 追加の検査には、PCR検査によるウイルス分離(FCVやFHV-1等)、レトロウイルス検査(FeLVやFIV)、全身疾患の評価(腎不全など)が含まれる場合があります。 非典型的なケース(片側性、通常は増殖性局所病変)では、口腔腫瘍形成またはその他の特定の口腔疾患を除外するために生検および組織学的評価が必要です。 殆どの場合、慢性炎症性病変または潰瘍性病変であり、リンパ球と形質細胞が優位であることが示され、病変が慢性炎症性の性質であることが示されますが、主な病因は解明されません。中には扁平上皮癌などの悪性腫瘍の場合もあり、組織検査は必須と言えます。 【治療】 過剰な炎症反応を調節するためにグルココルチコイドを単独で投与すると、通常、臨床的に大幅な改善がすぐに得られます。 全臼歯抜歯(前臼歯と後臼歯をすべて抜歯)または全顎抜歯(すべての歯を抜歯)と関連する軟部組織および硬組織のデブリードマンを行うことが、恒久的な改善をもたらし、全体的な長期的管理に役立つ唯一の治療法です。病気の進行初期に全抜歯を行い、抜歯後のレントゲン写真で歯槽骨内に残存歯根や歯片が残っていないことが確認されると、罹患した猫の 60~80% が治癒するか、少なくとも劇的に改善するようです。 慢性的に影響を受け、何ヶ月も薬物治療を受けている猫は、術後の予後が悪くなります。 歯が欠損している部分や以前に抜歯した部分に歯根が残っていないことを確認するには、レントゲン撮影が不可欠です。 術後の治療では、炎症、感染、痛みの抑制に重点が置かれます。 以下の内容は、論文に書かれている内容をそのまま日本語訳しましたが、一部、意味不明な内容もあったのでそれは削除しました。 ◯プレドニゾロンなどのグルココルチコイドの経口投与によって誘発される痛みのため、経口ステロイド治療はメチルプレドニゾロンなどのステロイドの注射よりも効果が低くなります。 ※激しい痛みがある場合は、皮下注射による治療が必要ですが、私自身は経験により長時間作用型ステロイドは合併症(免疫抑制によるFHV-1やFCVの悪化)のリスクが高いので、数日間のみ注射で治療し、疼痛が少し緩和され、少量でもウェットフードが食べられるようになった段階で内服に切り替えます。この治療の目的はあくまで炎症を抑えて疼痛の緩和であり、第一選択の治療ではないので、手術までの時間稼ぎという扱いです。その為、当院では長時間作用型ステロイドは使っていません。 ◯難治性の場合には、インターフェロンΩを経粘膜投与することができます。1 匹の猫につき 1 日 0.1M単位を 90 日間経口投与することが推奨されています (適応外)。ただし、この薬は高価で入手が困難な場合があります。また、結果に一貫性がないようです。 ※IFN-Ωの治療は、FHV-1やFCVの抑制に効果があります。論文上では経粘膜となっていますが、皮下注射で治療することが可能です。これは尾側口内炎の原因の一つに猫カリシウイルスの関与が考えられている為、ウイルスの増殖を抑え症状の緩和を図ることを目的としていますが、経験上、内科単独での治療は困難です。 ◯猫の口内炎の治療に一般的に使用される抗菌薬には、アモキシシリン-クラブラン酸やクリンダマイシンなどがありますが、治療が効果がない、または一時的にしか効果がない場合があります。慢性または再発性感染症の場合でも、病変の培養および感受性試験が必要になることはほとんどありません。 ◯ドキシサイクリンは、口腔細菌に対する効能と炎症を軽減する免疫調節作用の両方があるようです。投与量は、最小有効量まで減らします。炎症がすべて治まれば、治療を中止できます。これには、全顎抜歯後 3~5 か月かかる場合があります。 ※歯周病であれば、細菌性プラークが原因となっているので効果はありますが、こと、尾側口内炎では潰瘍病変に出血が起きて二次的な感染がある場合には一定の効果があります。しかしながら、本質は抗原に対する免疫反応のため、効果は限定的です。 ◯食事の変更(低アレルギー性で柔らかくて口当たりの良い食事)や局所消毒薬(例:希釈したクロルヘキシジンやアスコルビン酸亜鉛)の投与も検討する必要があります。治療に反応しない慢性の症例(例:重度の体重減少と脱水症状を伴う衰弱した猫)では、栄養補給のための栄養チューブの使用が検討されることがあります。 ※食事変更は、咀嚼による疼痛があるときはウェットフードが有効ですが、術後に疼痛が軽減した際には、どの形状でも問題ありません。手術する前までの話になります。消毒に関しては無理・・・。痛いのに口開けて消毒なんて、虐待そのもの・・・。さすが海外の論文です。 ◯猫の口内炎には、家庭での口腔衛生、頻繁な歯のクリーニング、歯周組織のデブリードマン、シクロスポリン、ラクトフェリン、レーザー治療、幹細胞治療など、他にも多くの治療法が報告されています。 ※幹細胞治療は、自己脂肪由来間葉系幹細胞を培養して、それを血管内投与する治療方法で、全臼歯抜歯や全顎抜歯をしたにもかかわらず尾側口内炎が改善しなかった症例に対して行われた研究です。研究の目的は以下の通りです。
治療後6か月間の評価の結論、抜歯に反応がみられなかった症例にしてMSC療法は、70%で効果があった。 という内容でした。犬ではステムキュアという脂肪由来間葉経幹細胞製剤があるのですが、猫では幹細胞療法(臨床研究)という形でアニコム系列の組織がなんかやっているようですが、試験研究段階組織なのでよくわかりません。クリーンルームなどの培養施設がなくても、犬のように製品化されたら治療の選択肢が一つ増えますので今後に期待です。 |
2025.01.17 |
動物用医薬品の個人輸入に関して
![]() ![]() 獣医師を管轄している農林水産省から動物用医薬品の個人輸入に関する注意喚起が出されました。 私たちも日本国内で未承認かつ未販売の薬を海外から輸入購入し、処方することがあります。 ひと昔前よりは海外生産の動物薬でも、メーカーが国内で承認を早めに取って流通するようになりましたし、円安の影響により国内薬の方が送料・手数料の高騰等を踏まえても価格差が減ってきたことから輸入する機会が減りました。それでも未だに未承認の薬、国内では高額な薬が多々ある為、病気の種類によっては海外薬を購入する事はあります。 今回、農林水産省が注意を促した理由として、正規品ではない偽薬が横行し、かつ手続きをしない個人輸入が違法行為であることを知らない人たちが増えてきている事から農林水産省のウェブサイトによる注意喚起がなされました。 近年では、マダニ予防薬やフィラリア予防薬、アレルギー性皮膚炎の薬等が海外で購入される方が増えてきています。下記に農林水産省の担当者が非常に分かりやすく書いてくれたウェブサイトのLINKを貼りますので、ご一読下さい。 海外で購入することが悪いわけではなく、正当な手続きをし、かつしっかりとした流通経路から購入されるのであれば問題ないと思います。昔からある有名な海外違法サイトがあります。拠点が海外にある為、国内での取り締まりが出来ません。正規品を流通させてくれるのあれば良いのですが、残念ながら偽薬が多く、健康を損なうことも起きています。安いには理由があります。なので、購入する際は正しいリテラシーをもって対応していただければと思います。 |
2024.12.27 |
犬・猫にもシーラント治療
![]() ![]() 11月から1か月ほど休みがなく、毎度のことながらブログの更新諸々が滞っておりました。 さて、皆様は「シーラント」という言葉を知っていますか? シーラントは、人において奥歯の溝を物理的に封鎖したり、シーラント材の中に含まれるフッ化物により再石灰化作用を促進したりするむし歯(う蝕)予防法を指す用語で、12歳未満の子供の歯に施術されることが多いです。人では4年以上で約60%のむし歯予防効果が認められており、むし歯発症リスクの高い歯に行うと特に有効と云われています。 因みに、犬でのむし歯(う蝕)の発生率は人と比較すると、かなり低いと云われています。 今回の犬・猫におけるシーラントとは、人で言うところのむし歯予防ではなく、清掃性の向上により歯周病リスクを減らす事が主目的になります。また、次回の歯石除去を行う際に施術時間の短縮化です。 犬・猫におけるシーラントを行う場所は上顎第4前臼歯(頬側)と下顎第1後臼歯(舌側)です。 手術動画からの抜粋画像なので、少々ピントが微妙ではありますが、それで説明します。 まずは上顎の第4前臼歯に関してです。
上顎第四前臼歯(頬側)と下顎第一後臼歯(舌側)の発育溝は深い為、歯磨きをしていても磨き残しが発生します。 歯石は、プラーク中の細菌が死んで固まったものという認識でほぼ問題ありません。 ただし、歯周病の発生メカニズムは同じですので、この偏性嫌気性菌が増えないようにする処置、すなわち歯石の除去や歯垢の除去が大切な訳です。 で、本題に戻りますのと、この発育溝に付着した歯垢・歯石があることで歯周病リスクが増加するので、溝が埋まることで清掃性の向上や歯石除去時に施術時間短縮の効果が見込めるのがシーラントになります。 下の写真は歯石除去ならびにポリッシング後の歯の写真で、左がシーラント処置前、右が処置後です。
発育溝がコンポジットレジンで埋まり、溝が平坦化しています。 麻酔下にて歯科処置を行う際は、発育溝のシーラント処置をお勧めします。 |
2024.11.12 |
Er.YAGレーザーが加わりました
![]() ![]() ちょっと学会やワークショップ、自宅のリフォーム、電子カルテの入れ替え作業等々、色々とやらなくてはならない事が多く、ブログを書いたままupdateせずにそのまま放置し、早1か月が過ぎてしまいました。10月上旬に書いたブログを11月にupします・・・。他にも書きかけのやつが3つほどありまして、まだ出来上がっておりません・・・。出来上がり次第、updateします。 — 今回、歯科治療の為に歯科医療機器で有名なモリタ社製の「Erwin® AdvErL EVO(アーウィンアドベールEVO)」を導入いたしました。 エルビウムヤグレーザー(以降、Er.YAGレーザー)で何を治療するのか? まず、レーザーといっても炭酸ガスレーザー、Nd.YAGレーザー、半導体レーザー等が医療機器として販売されています。脱毛レーザーは波長の違いにより毛の黒い色素(メラニン色素)にのみ反応する性質を持っているだけで、基本は同じです。当院にも炭酸ガスレーザーがあり、皮膚腫瘤や口腔内腫瘤の切除、軟口蓋切除等の外科治療機器として使用しております。 こういった医療機器に使われるレーザーですが、波長の違いによりさまざまな名称があります。紫外線、赤外線等 水に極めてよく反応をし、同じ表面吸収型レーザーであるCO2レーザーと比較すると、水に対する吸収係数は10倍、組織浸透型レーザーであるNd:YAGレーザーと比較すると20,000倍になります。 硬組織の蒸散のメカニズムは、レーザー光が水や有機成分に吸収され、光エネルギーは熱エネルギーとなりphotothermal evaporationを生じ、加えて水蒸気による内圧亢進によるmicroexplosion(微小水蒸気爆発)が起こることにより硬組織の蒸散が可能となります。なのでレーザーで歯石も取れます。 Er.YAGレーザーは、人医療においては現在、歯肉の色素沈着の除去(メラニン沈着、メタルタトゥ)、歯肉の切除や整形、歯周炎の治療(歯石の除去、歯周ポケットの治療、歯周外科治療)、インプラント周囲炎の治療に効果的に用いられています。 人医療でEr.YAGレーザーを治療に使われるのは以下の通りです。それ以外にもあります。 1.硬組織疾患:う蝕(虫歯)除去、くさび状欠損の表層除去 人では、Er.YAGレーザーを使用するメリットは様々あるのですが、一番のメリットは治療中の疼痛やストレスが少なく、基本的には浸潤麻酔なしで歯周ポケット内にチップを挿入し、治療できることです。 それでは、動物医療においての使いどころはなんでしょうか? 炭酸ガスレーザーでも歯周病の治療、小帯切除、口内炎治療、歯肉腫瘤切除は使えるのですが、炭化(焦げ付き)が発生してしまう事とドライな環境下ではないと効果がでません。また歯周ポケットの内の殺菌はできません。また、根管内の洗浄もできません。 まだ当院では、導入間もなくEr.YAGレーザーの治療適応となり、実際に施術した症例が少なく、まだ経過をみている最中の為、治療before、afterの報告ができておりません。症例が集まりましたら、学会またはブログ上でもご報告いたします。 先日、歯周病のメンテナンス治療の為にEr.YAGレーザーを使いましたが、施術スピードが速く、処置時間がかなり短縮できました。また、歯肉腫瘤も出力を変更するだけで殆ど出血させず、切断面も焦げ付かずに綺麗に切除することができ、審美性の観点からは非常に綺麗な仕上がりになりました。 当院では、根幹治療も行っている為、Er.YAGレーザーを使ったLAIという技術でどの程度、処置時間・麻酔時間が短縮できるのか楽しみです。 ※LAIレーザー(Laser Activated Irrigation)とは、歯内療法の分野で、レーザーと洗浄液を併用して根管内部を洗浄する技術の事で、レーザーの光力学的効果を利用して、根管内部に微細な泡(キャビテーション)を発生させ、その衝撃波で根管内部を洗浄します。 |
2024.06.25 |
外傷性歯周病かも
![]() ![]() 繁忙期が終わり、通常診療に復帰したので、ブログを書く時間が取れました。 今回は若齢にも関わらず歯周病になり、抜歯せざるを得なかった犬の症例に関してです。 当院では診察時における身体検査で、可能な限り口腔内を視診にて確認しています。 切歯に歯周病が発生し、歯肉の充血・腫脹が発生している所があり、飼主様もそこを気にしていたことから、審美性を保つために麻酔下にて歯科レントゲンにて確認し、早めに治療をすることになりました。 飼主様は歯磨きを毎日欠かさずにやっている為、肉眼的には歯石は気になるほど付着しておりません。 患者さんの外観写真です。どこが悪いかわかりますでしょか? 私も視診だけでは全く分からず、麻酔下をかけてプロービング検査&レントゲン撮影を行ってやっと病状が分かりました。 PPD(Probing Pocket Depth)が5mmもあり、かつ出血しました。通常は1mm未満で出血もしません。 因みに、同部位の歯のレントゲンの画像です。 レントゲンで見れば一目瞭然です。 体位を横臥位(横向き)から仰臥位(仰向け)に変更し、詳しく確認作業を行いました。 プロービング検査はあくまで深さを探る検査道具なので、キュレットと呼ばれる道具に切り替えて膿をかき出してみました。静止画なので分かりませんが、結構な量の膿が採取されました。 抜歯時は歯肉溝に沿わせて、トンネリング インスツルメントと呼ばれる骨膜剥離子を挿入し、頬側の歯と接着している歯肉を剥離切断しました。メス刃でもよかったのですが、今回は歯肉を傷つけないようにトンネリングを使用しました。 抜歯後に不良な炎症細胞が残らないように全てかき出し後にしっかりと洗浄し、穴を6-0吸収糸で縫合しました。 今回、肉眼的には歯周病がなかったのにも関わらず、歯周病を起こしてしまった原因を考えてみました。 飼主へ術後説明をしている際の話を聞いていると、布の引っ張りっこをさせていたことが判明しました。 歯周病の1つの要因として外傷性咬合というものが人ではあります。 私もかかりつけ医から力強く噛んでいるので咬耗が起きているので注意が必要と何度か指摘されていました。 今回の歯周病も歯肉退縮や歯肉充血等がなかったことから、プラークが原因の歯周病とは異なり、歯根部に強い外圧が度重なり加わわった結果、歯周組織に炎症を起こし出血、口蓋側から細菌が入り込み、嫌気状態(酸素が無い状態)になって歯根周囲で継続的な感染・炎症が起こった事で骨吸収が起きてしまったのではないかと考えました。 普通に噛むだけであれば歯根に対して垂直方向に力が加わるだけですが、布の引っ張りっこによって、人間の歯ぎしり(ブラキシズム)のように水平方向にもより強い咬合力が加わるために歯周組織が破壊されたのだと思います。 なので、硬いものをかじって垂直方向に強い力が加わりすぎる事も歯にはよくないですが、布を強く引っ張っりすぎる行為も水平方向への圧力が発生するため、それが今回のような歯周病の原因になりうる可能性があるという事を理解しておく必要性があると思います。 |
2024.05.13 |
マイクロスコープの倍率の違い
![]() ![]() マイクロスコープを導入し、あっという間に2カ月が過ぎました。 患者にとって麻酔時間が増えてしまう事は、延長した分、心肺機能等への負担にはなってしまいますが、やったつもりで実はしっかりと出来ていなかったという状況を回避できるメリットがあります。この事は後の治療成績に反映されます。 特に歯肉縁下(歯肉溝内)の取り残しは歯周病の治療成績に影響を及ぼしますので、取り残しがないように行う必要があります。 ※プロービングポイントディプスとは、歯肉辺縁からプローブ先端部までの距離のことで、歯周病が進行するとポケットは深くなる。 マイクロスコープを使うとどうやって見えているのかを各倍率毎で写真を撮影しましたので、ご紹介します。 ●拡大倍率3.2倍 この写真は犬の頭蓋骨を使った歯内治療練習時に撮影しました。 下の写真は、拡大倍率8倍で上顎犬歯の口蓋側(歯の内側の歯肉粘膜が凸凹した側)歯肉溝内の歯石を確認している写真です。 拡大鏡を使わずともハンドスケーラーを使って感覚的に手に伝わる振動や抵抗等を基準に縁下歯石を取ることは可能ですが、なるべく歯(セメント質)や周辺軟部組織へのダメージを最小限にしたいので、こういう時こそマイクロスコープを使って的確に、かつ低侵襲で必要なところ以外は触らないようにしておけば歯や周囲組織へのダメージが少なくなります。 下の写真は、上の写真の上顎犬歯を拡大倍率5倍でスケーリングした際のものです。 歯科分野ではものすごく活躍してくれているマイクロスコープですが、一般外科手術でも大活躍しています。 老眼の私にとっては、もはやなくてはならない存在になりました。 |
2024.04.29 |
歯内治療とは?③
![]() ![]() 前回は歯の本体である象牙質について説明しました。 今回は、歯内治療とはどのように行われるを説明します。 ①機械的根管拡大、感染歯髄の除去 ①の機械的根管拡大ならびに感染歯髄の除去について説明します。
孔をあけるポイントは犬の場合、上顎第四前臼歯の場合は歯根が3本ありますのでそれに応じた切削が必要になります。上の写真の様にアクセスポイントを開孔し、歯髄腔に到達したら汚染された歯髄の除去を行います。 その際に使用するのがファイルという特殊な道具を使います。 歯科用ファイルは、歯科治療で歯の内部にアクセスし、歯の根管内部をきれいにするために使われる特殊な道具です。これらのファイルは、金属製のワイヤーで細いドリル状の針の形状をしています。用途に応じて様々な形状やサイズがあります。 根管はまっすぐだけでなく、曲がったり湾曲したりすることがあります。特に臼歯の根管は曲がっています。そして、先端に行けば行くほど細くなっていたりと複雑な形状をしている為、何種類ものファイルを用いて、根管の拡大と歯髄の除去を行っていきます。細かく説明すると大変なので割愛します。 ②根管拡大と歯髄の除去が終わった後、化学薬品による根管内の殺菌・洗浄を行います。 基本的には、ファイルによる根管拡大と歯髄の除去を行っている最中も次亜塩素酸ナトリウムという化学薬品液を使って根管内の殺菌・残存歯髄の融解作業を行っています。歯内治療をしたことがある方は「なんか塩素臭いかも」と感じたことがあるかもしれませんが、まさにそれです。いわゆるハイターで殺菌消毒しています。
③根管の洗浄が終わたらガッタパーチャ(根管充填の際に用いられるゴムに似たもの。以下GPと略します)を根管内へ注入し封鎖します。 GPは固体ですが熱を加えると軟体となり、その性質を活かし細い根管内に充填し、根管内を封鎖します。 当院では根管充填材にBIO-Cシーラーというものを使用しております。
当院ではガッターパーチャポイントという棒状のものをしようしないでオブチュレーションガッターと呼ばれるGPを軟化させたものを根管内に器具を使って根管内注入して封鎖しています。 ④次に削った歯髄腔と歯冠をコンポジットレジンを使って充填していきます。 歯髄腔は空洞になっていますので、このままでは歯の強度が非常に弱い為、歯が割れてしまいます。 作業中はレジンが固まらないようマイクロスコープにフィルターをかけて青い光を遮断しながら作業を行います。 この作業なのですが、地味に難しくてゆっくりごく少量ずつ入れても、微量な気泡が入ってしまいます。気泡が入るとレントゲン写真に黒い丸の出来上がりです。小さな気泡の場合は、強度的には問題がなく、細菌も周りで完全密封されてしまっている為、悪さすることもありません。ですので、治療結果には影響はありません。施術者側のメンタルな問題で、できれば綺麗に仕上げたいのです。
最後に、歯科用のレントゲンを撮って仕上がりを確認します。 一部、歯髄腔内にGPが微量に残っていたようでレントゲン上でそれが露呈してしまいます。 歯内治療の治療に関する話はこれで終わりです。 手慣れた熟練者ではあれば、条件がよければ2時間位で終われるとの事ですが、なかなか難しいです。 歯内医療はあくまで歯の温存を目的とした治療であり、すべてに適応されるわけではありません。 もし、破折し露髄した歯の治療で複数回の麻酔をかけるのが難しかったり、プラークコントロールが全くできないという場合には、1回で治療が終われる抜歯を推奨します。これらは飼主様と相談した決めることになります。 歯内治療も抜歯も、最終的な目標は「痛みをとる為」です。 |
2024.04.07 |
歯内治療とは?②
![]() ![]() 前回は、どの歯がどういう状況で破折し易いかを簡単に説明しました。 今回は歯内治療の説明の前に、歯の本体である象牙質について解説したいと思います。 動物医療の場合、虫歯による神経への感染は殆どありません。 先ほどから出てきている象牙細管って言葉は何?と思われる方も多いと思いますので説明します。 上の人歯の断面イラストにある象牙質の線状構造が象牙細管です。 実は、この象牙細管内には神経は存在しません(色々研究されているが存在を証明出来ていない)。 では、神経がないのに知覚過敏とか痛みとかどうやって感じているのか? 動水力学説とは、象牙質表面への刺激が象牙細管内に浸透圧差を生じ、これにより象牙細管内の組織液が移動し、そしてその浸透圧差により移動した組織液の流れが、歯髄に存在する神経を刺激するというものです。また、象牙芽細胞が、浸透圧差により移動した組織液の流れを感知し、さらにその情報を神経に伝達することが示されつつあります。 下の写真は走査型電子顕微鏡により撮影された牛の象牙細管です。 画像引用:Lopes, Murilo & Sinhoreti, Mário & Gonini Júnior, Alcides & Consani, Simonides & McCabe, John. (2009). Comparative study of tubular diameter and quantity for human and bovine dentin at different depths. Brazilian dental journal. 20. 279-83. 10.1590/S0103-64402009000400003. 牛の象牙質に細菌が接触させ、象牙細管内にどれくらいの時間でどの程度の距離入り込むのかを検証した実験では、10日間で449.7(±106.2)μmまで侵入したとあります。ただ、それ以降はちょっと足踏み状態になりまして単純計算でどんどん進んでいくという事にはならなかったようです。組織液が細菌の侵入を抑えている為です。 広範囲の破折による露髄の場合は、直接的に歯髄内に細菌が入り込みますが、部分的なエナメル質の破折の場合であっても時間経過と共に細菌が象牙細管を経由して歯髄内に入り込み感染を起こします。 上の画像は、右上顎第四前臼歯の破折です。広範囲に割れており、かつ歯肉縁下まで破折しているのが分かります。そして歯冠近心部(鼻側の方)は割れた破片が一部まだ付着しています。破折を起こしてから大分時間が経過しているようで、がっつりと歯石と歯垢が象牙質に付着しております。この状態では歯髄内への細菌感染が起きていると断言してもよさそうです。 丁寧に歯石を除去し、歯肉を切開し歯肉縁下の歯石と付着していた破折片を除去しました。 この歯は、エナメル質だけでなく象牙質も広範囲(歯肉縁下にまで波及)で障害を受け、露髄しています。 ①破折した歯の抜歯 ①を選択した場合、カーバイドバーを使って歯を分割して3本ある歯根を除去、歯肉粘膜を使って閉鎖縫合します。 ②に関しては、破折直後でまだ感染のリスクが低いときの選択肢であり、それでも一度露髄した箇所には細菌が付着してしまいますので閉鎖後に歯髄内への感染が起きないかを保証する事ができません。後日になって歯髄感染の結果、根尖部に骨吸収病変が出てしまう可能性があります。 ③は、この度当院でもマイクロスコープの導入により精密・安全的に行うことが可能になった抜歯せずに歯を保存する治療法です。感染・壊死した歯髄を物理的に除去し、根管内を化学的洗浄液にて殺菌・有機物の融解を行った後、充填材を用いて根管を閉鎖します。しっかりとした治療を行うには時間とたくさんの資材を使い、マイクロスコープ下での治療が必要になる為、治療費は最も高額になります。長くなるので、次回に詳しく説明します。 ④は、付着した歯石除去を行うのみです。ただし、象牙質の状況から歯垢が付着しやすい為、比較的短時間で再歯石化します。また歯髄が露出したままなので痛み等はとれず、歯髄内の感染も防げませんので、時間の経過ととも症状は悪化していきます。最終的には抜歯が必要になる可能性が非常に高くなります。 どれが良いかは、歯の状況や継続的なメンテナンス(歯磨き等)ができるかどうか、飼主様の歯を残したいかどうかの希望、経済的事情、年齢等を考慮した上で決定されます。メンテナンスがある程度できている場合は、歯の温存を希望される方が多いです。 次回、歯内治療に関して説明していきます。 |