アニマルクリニックフロンティア - 記事一覧
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2024.03.26 |
歯内治療とは?①
マイクロスコープの導入により大手を振って行えるようになった歯内治療に関してです。 歯内治療は「抜髄」,「エンド」,「根管治療」とも呼ばれています。 ※根尖部性歯周炎とは、歯の内部には多数の細菌が生息している事で、それらが歯根の尖端にある神経や血管が入ってくる孔(根尖孔)から、歯根の周囲の組織(根尖歯周組織)に細菌の感染が広がり、病変が拡大していきます。その結果、歯根の尖端に炎症が起きて骨吸収が発生し膿が溜まった状態の事。 人の場合は虫歯の進行によるものが多いですが、犬の場合は硬いものを噛んだ事により歯が割れてしまい(平板破折)、歯髄が歯外に露出してしまう(露髄)事が多いです。外傷性による破折もあります。外傷性は犬歯に多い。 なぜこの歯が一番破折を起こしやすいのでしょうか? この歯は下顎の第1後臼歯と併せて裂肉歯と呼ばれ、咬合時に一番使う歯であり、多くの肉食哺乳類において肉や骨をはさみのように剪断する大切な機能を持った歯です。 自然動物にとっては非常に重要ですが、人と一緒に生活し、かつドッグフードのような噛み砕く必要のないフードを食べている所謂ペットにおいてはそれほど重要な事ではないのかもしれません。が、歯が割れたら神経が出てしまうため、知覚過敏や細菌感染を起こし痛みに原因になります。 ある日を境に、急に反対側で噛まなくなったとか、硬いものをかじったらキャンと鳴いたとか、心当たりはありませんか?もしかしたら、歯が割れて露髄しているかもしれませんよ。 歯はエナメル質という身体の中で最も硬い組織により覆われているため丈夫です。人ではこのエナメル質の厚さは2〜3mmあると云われていますが、犬猫では0.1~1mmと人の半分にも満たない厚さなのです。そして大きく損傷すると再生されない組織でもあります。エナメル質表層に関しては再石灰化することがある。 犬の破折の原因で最も多いのは蹄、角、硬いおもちゃ、ヒマラヤンチーズです。 心当たりはある方は、今すぐ止めましょう!歯が割れる危険性があります! 因みに、「獣医師が推奨する」という決まり文句にも細心の注意しましょう。名前や所属等を出した上で紹介している場合は、その商品に対する責任を負っているということなので問題ないと思いますが、正直なところ、どこの誰??っていうのが多いです。その商品に対して意見を聞いてみて「good」と答えただけで獣医さん推奨!とか書かれてしまう世の中です。 次回は、歯内治療がどのように行われるのかについて書きます。 |
2024.03.23 |
手術用マイクロスコープが導入されました。
2024年2月末に新しい医療機器である手術用マイクロスコープを導入しました。 マイクロスコープとは、手術用顕微鏡のことで肉眼と比較して数十倍まで視野を拡大することができる医療機器です。当院では導入したマイクロスコープはカメラで有名なLEICA製のもので総合倍率40倍まで拡大可能です。 主な用途として歯科施術に導入しましたが、一般手術にも用いることができます。 顕微鏡下での手術というと脳神経外科や眼科のイメージがありますが、ご存じの方も多いとは思いますが歯科もマイクロスコープを用いて施術する時代です。むしろないと困る時代に突入しております。 今回、新しい医療機器を導入するにあたり動物病院における道内初上陸には残念ながらなれませんでした。2番目でした。残念ながら道内1番目は達成できませんでしたが、最初に導入した病院はノーマルタイプ、当院は180度鏡筒仕様+エルゴオプティークというオプションをつけての導入になり、これは動物病院としては道内初です!そこはちょっとしたこだわり…
まぁ、どれだけ良いものを導入しても使いこなせなければ意味がありません。 因みに、顕微鏡とマイクロスコープの倍率とは考え方が異なり、同じものではありません。 光学倍率=(対物レンズの倍率)×(接眼レンズの倍率) つまり、対物レンズの倍率 10倍 × 接眼レンズの倍率10倍であれば光学倍率は100倍になります。 マイクロスコープの倍率は総合倍率というものになります。 総合倍率の考えた方は比較的単純なもので、1mmの対象物がモニタ上で10mmになっていれば「10倍」、1mmが40mmになっていれば「40倍」です。ものすごく理論やら何らやを省いて分かりやすく表現すると、「総合倍率40倍≒光学倍率20倍」といった感じです。 なので、当院で使用しているマイクロスコープは最大約20倍まで拡大して施術を行うことが出来ます。 では、このマイクロスコープの普及率は人の歯科医療ではどの程度普及しているかというと、国内では凡そ5~10%と推定されています。出荷台数は年々増えているとのことですが、1施設で複数台のマイクロスコープを導入している所が多い為、見かけ上の出荷台数は増えているが、歯科医院全体でいうと5-10%程度と普及率は数年前と比較してもあまり変わっていないようです。 保険適応できるものは国が定めた一部の治療に対してのみで、すべての処置に対しては適応されません。その為、マイクロスコープを使用する場合、自費診療になるかマイクロスコープ費用を患者様に請求しないかのどちらかになってしまうようです。なので、導入をしていない施設が多いのだと思います。動物病院は自費診療になりますので、国からの規制はありません。 今の時代、歯科用CT、マイクロスコープ、CAD/CAMまたは口腔内スキャナーが歯科医院における三種の神器と云われています。 私も虫歯治療で根管治療(いわゆる歯の神経を抜く)をした際、裸眼で保険適応で行ってもらったことがありましたが、その1年後には根尖部における骨吸収(感染により炎症が原因)を起こして痛みがとれず、マイクロスコープがある歯科医院にて精密根幹治療をして完治した経験があります。 こんなことを云うと怒られてしまうかもしれませんが、私はマイクロスコープがない、虫歯治療や根幹治療でラバーダム防湿をしない歯科医院では治療を受けたくありません。 こんな偉そうなことをいって、「お前は何も出来なじゃないか!」と云われないよう日々研鑽しております。 犬の頭蓋骨を輸入し、それを使って切歯・犬歯・臼歯に対する根幹治療や破折に対するレジン修復技術も日々研鑽しております。 因みに、当院は歯科専門病院でありません。 度々、平日・土日に病院が臨時休診になってしまうことがありますが、より高度な専門知識と技術習得の為に修行に行っておりますので、ご理解の程を宜しくお願い致します。 今後、マイクロスコープを使った症例報告をこちらでどんどんしていきますので、気長にお待ちください。 |
2023.12.04 |
歯がない?それっていつから?
当院では対応していなかった根幹治療に関する技術習得に時間を割いていた為、ブログを全く更新できませんでした。冬に入り、空き時間が増えてきたのでまた少しずつ更新していきます。 若齢犬における身体検査にて本来あるべきところに「歯がない」という事が結構見られます。 歯がない原因はいろいろとありますが、若齢犬においては次の3パターンを考えます。 歯が生えてくる状態を「萌出(ほうしゅつ)」と云いますが、未萌出には「先天性欠如」、「萌出遅延」、「埋伏」が考えられます。 ・先天性欠如:永久歯が生まれつき足りない状態 先天性欠如は、生まれ持ってその歯が欠如している状態であり、犬の場合は色々と品種改良されている為、骨格も異なり頭蓋骨が小さいチワワ、顎が短い短頭種において先天性欠如が好発で見られます。これらは遺伝的な問題なのですが、そういう犬だからないのが当たり前なのではなく、実は隠れている場合もあるので注意が必要です。必ず左右を確認します。 萌出遅延は、原因が色々とあり一概には説明できないのですが、栄養状態や内分泌ホルモン異常、骨格の問題、残存乳歯の影響、歯列異常等が考えられます。また、硬い歯肉が原因で歯が被覆されて出てこられないということもあります。その場合はタケノコみたくぽこっと歯肉が盛り上がっていることが多いです。見た目だけでは全く分からないこともあります。 埋伏とは、見た目では歯がないけどレントゲン上では歯がある状態で、歯肉内または歯槽骨内に埋まってしまって出てこれない状態の歯です。チワワやシーズー、パグ、ボストンテリア等の短頭種において見られることが多く、未萌出歯の約60%が下顎第1前臼歯で発生しており、口腔内における嚢胞の約70%が含歯性嚢胞であるという研究データがあります。診断はレントゲン撮影でないと出来ません。 では、先天性欠如を口の写真と歯科用レントゲンではどうなっているのか説明します。 通常の上顎の歯列(口にある歯の並び。歯並び)は切歯3本、犬歯1本、前臼歯4本、後臼歯2本です。 赤〇で囲った所が本来歯があるべきなのですが、ありません。 次に萌出遅延ですが、手元に良い写真がなかったので、若干ニュアンスは異なりますが、こんな感じと思っていただけば幸いです。 これは猫の口ですが、赤〇で囲った部位に歯があるのですが埋まってしまって、少しだけ歯が見えています。この状態、乳歯が抜けてからも2カ月経過してもこの状態が続いていたため歯肉が硬いから出れてこない可能性を考えました。他の歯でも歯肉炎も起きています。炎症が原因で歯肉が腫れているだけかもしれませんが、触っても血がでなかったので硬い歯肉だったと記憶しています。 処置はいたって単純で、歯を被っている歯肉を切開して開いてあげればよいです。今回は歯の頭が見えており、歯の周りを硬い歯肉が覆ってしまっていたので炭酸ガスレーザーを使って余分な歯肉を蒸散させて歯を露出させました。1週間後には綺麗になっていましたが、猫なので意識下で写真を撮るのが難しく、綺麗になった口の写真は撮れませんでした。 次に埋伏歯ですが、当院は歯科専門病院ではないため、埋伏歯の症例が少なく歯科用レントゲンがなかった頃に来院された症例で説明します。今回の歯埋伏歯の紹介というよりは、埋伏歯の影響で発症した含歯性嚢胞の紹介になります。 主訴は左下顎が腫れているです。見ての通り下顎の皮膚から下唇が腫れています。本来なら切歯・犬歯・前臼歯が生えている所なのですが、歯肉が腫れている為、歯が見つけられません。あるのかないのかどっちなんだい?という状態です。 歯科用ではなく、通常のレントゲン撮影にて顎骨の状態を確認しました。 視診では確認できなかった犬歯や前臼歯が確認できます。つまり、歯肉内に埋まった歯=埋伏歯という事が分かります。埋伏歯があるとどうしてこうなってしまう(嚢胞形成)のかは長くなってしまうので割愛します。 治療方法は埋伏した歯を掘って抜歯になります。歯肉内に埋もれている場合は、歯肉切開をおこなって抜歯になりますが、薄い骨の中に埋もれている場合もあるため、超音波等で歯を被っている薄い骨を削って歯を露出させて抜歯します。 今回紹介した症例は嚢胞が形成されてしまってからの処置でしたので、嚢胞を切開し、そのまま抜歯しました。 嚢胞が形成された粘膜は綺麗に除去しないとまた嚢胞が形成されるので、マイクロスコープで見て綺麗に除去してあげるとgoodなのですが、当時はマイクロスコープないし、老眼もなかったので一生懸命、裏側の組織をコシコシ除去した記憶があります。 これらは若齢動物に見られる「歯がない」という話でしたが、高齢になるにつれて起きる外部吸収という病態もあります。 下の顎の歯列は切歯3本、犬歯1本、前臼歯4本、後臼歯3本の合計11本です。 左側の下顎は前臼歯4本あります(1本舌で隠れています)。 赤〇で囲った所ですが、おや?歯冠はないけど、歯根が確認できる。それに隣の歯も歯根がなんか薄い(黒くなっている)。 ちなみに、左側の下顎歯のレントゲン撮影をしてみると… 歯が歯冠から歯根に向かって溶けているのが分かります。痛みの原因になるので、この歯は抜歯しました。 結論から申し上げますと、若齢犬では歯がない場合は欠損や萌出遅延、埋伏の可能性が高いが、高齢犬では欠損や埋伏のほか、外部吸収の可能性を考えなくてはなりません。もちろん、歯周病で歯が抜けたという事も考えられます。 その為、「歯がない」場合、レントゲン検査を実施することが望ましいです。 ですので、歯科処置を行う時は一見健常に見える歯であっても歯科用レントゲンを撮影し、歯根部に問題ないかを毎回確認します。 |
2023.09.04 |
10〜12月の診察時間変更のお知らせ
お知らせの方にも告知してありますが、下記の通り診察時間が変更となりますのでご確認ください。 10/3(火) 〜 4(水) 臨時休診 11/7(火) 〜 8(水) 臨時休診 12/5(火) 〜 6(水) 臨時休診 上記日程は、福岡で行われる歯内療法学の講習・実習に参加する為、休診とさせていただきます。 |
2023.08.20 |
どうする!?胆嚢粘液嚢腫
連日連夜と真夏日・熱帯夜が続いております。昨年はあまり使用しなかったエアコンですが、今年はフル稼働で使わない日がないです。「夏が暑いと冬は大雪」なんていう言葉がありますが、今年の冬は一昨年のような状態になるのでしょうかね? さて、また胆嚢疾患に関してです。 ここ数年、本当に胆嚢疾患が多いです。遺伝的の問題なのか、食事・オヤツの問題なのか明確な因果関係は分かりません。 無症状、かつ軽度の胆泥症であれば経過観察(年に1回以上の検査は必要)です。 先日も肝数値が高かった為に検査を実施し、中程度以上の胆嚢疾患が見つかり、しばらく経過を追った所、胆嚢粘液嚢腫化している所見が確認されたので動画を見せながら時間をかけて外科的介入の必要性や予後について説明(今後の起こりうるリスク、手術をしないという選択肢をした場合、手術した場合の定期的な検査や継続的内科治療等)をしましたが、案の定、転院されてしまいました。仕方がありません。 さて、ブログでも何度も触れてきた胆泥症の最終形態である胆嚢粘液嚢腫ですが、近年の論文から胆泥症が見つかった場合、時間経過と共に胆嚢粘液嚢腫になるリスクは高くなることがわかりました。つまり、胆泥症は無治療でも大丈夫という変な説が間違っていると証明されました。 もちろん、胆泥症と診断された全てが胆嚢粘液嚢腫になるわけではありません。ならない個体もたくさんいます。その経過を見るためには定期的なモニタリングが必要となります。 胆嚢粘液嚢腫の初期症状は、ほぼ無症状です。あっても軽度の肝酵素の上昇、全く数値の変動がない個体もいます。 よく「胆泥症は偶発的に見るかることがあります」とgoogle先生で調べると出てきたりしますが、偶発ではなく症状がなかったのでそこを見ていなかっただけです。健診などの検査で見つかった場合はむしろ幸運と云えます。全員に超音波検査ができればよいのですが毛刈りや費用等の問題から肝酵素が少しでも高かった個体にだけしか検査を勧められない現実があります。 今回は別の手術を実施するために行った術前検査にて偶発的に発見されてしまった胆嚢疾患に関する症例を報告いたします。 術前血液検査にてALPのみ上昇(基準範囲の2倍ちょっとの値)があり、高齢という事もあり超音波で確認した結果、見つかりました。 開腹して、胆嚢含む肝臓周りの目視による確認をしたところ、異常な外観を呈した胆嚢が目に入りました。 いつもは黒緑っぽい感じにみえるのですが、どうみてもサツマイモにしか見えません。 胆嚢を切開し、内部の確認を行いました。 3つの手術を同時に行いましたが、3カ月程で肝臓数値も落ち着き始め、特に合併症もなく元気で過ごしていただいております。 胆嚢摘出後は、肝酵素の数値が早い段階(2〜3カ月以内)で基準範囲内に戻る場合と高値のままで推移する場合の2通り起きてしまいます。結局のところ個体差なのですが、胆嚢起因性の肝臓障害がどれだけの期間起きていたのか、肝臓代謝機能に先天的な異常があるのかないのか(異常はあるが症状を伴わない個体が実は多い)、肝臓の予備能力がどの程度残っているのか等、様々な要因がある為、こうなりますよという事前予想が出来ません。 また、術後半年から1年後に残存胆嚢胆管内に胆石ができる場合もあり、肝内胆管に複数の胆石が出来てしまうこともあります。それらは外科的に摘出が困難なので、大きさや位置に変化がないか定期的にレントゲン検査でモニタリングする必要があります。 ですので、胆嚢疾患が見つかった場合、「様子を見ましょう」ではなく「今後、どうする?」となります。 何が最善なのかは正直なところ難しく、手術をした事で以前より食欲が増えた・元気になったというお声をいただいているのでやって良かったんだなと思う次第です。 ですので、手術をしたくないという場合は、その旨をしっかりと意思表示していただければできる限りの対応はします。 |
2023.07.18 |
犬の歯吸収病変
繁忙期が終わって、諸々の事務処理も終わったので、久しぶりの更新です。 今回は犬の歯における吸収病変に関してです。以前の猫の歯における吸収病変(FORL)とかぶりますが、最近、犬で遭遇する機会がかなり増えてきたので紹介します。 歯における吸収病変は、食欲不振、流涎症、無気力、うつ病、口臭、不快感を引き起こすことが報告されています。ただし、歯の吸収があるからといって飼主が認識できるほどの行動的変化が起こることはめったにありません。しかし、痛みを伴う吸収性病変のある歯を除去すると、疼痛が緩和するため、処置前と比べて元気になり、食欲が増えます。そこで「やはり痛かったんだ」という事に初めて気が付きます。 吸収性病変の診断は、覚醒時の口腔内検査(視診、触診)から始まります。 吸収性病変のある歯には、多くの場合、歯冠にないはずのピンク色の斑点が見えたり、歯肉組織や肉芽組織が歯冠の病変部まで増殖し広範囲にわたって被覆されます。 吸収性病変は歯根分岐部(歯根を足に例えると股の部分)の近くで頻繁に発生しますが、麻酔下での口腔検査中に吸収性病変を探ると、吸収性病変がある部位は鋭いエナメル質のへりがある為、探子が引っ掛かります。窪みというより海岸線にある崖のような感じです。 犬の場合、吸収は虫歯病変と間違われることがあります。犬の吸収は、病変の位置と検査に基づく病変の特徴によって区別します。 う蝕(虫歯)は咬合面(後臼歯)で発生する傾向がありますが、吸収は非咬合面(裂肉歯)に及ぶ傾向があります。う蝕病変は柔らかいエナメル質・象牙質ですが、吸収性病変は通常、硬い象牙質です。 無麻酔下での口腔検査には限界があり、より小さな病変を歯肉炎と区別するのが困難です。麻酔下での口腔検査では歯に欠損が存在するため容易に区別できます。ただし、多くの場合、歯冠は歯石によって隠されているため、麻酔下で歯石除去するまで吸収性病変を視覚化することはできません。 上の写真は、正常な下顎の第4前臼歯と第1後臼歯です。歯と下顎骨の境界である歯根膜がしっかりと確認できます。 この写真は下顎の第3〜4前臼歯、第1後臼歯のレントゲン写真ですが、上の正常と比べて異常だらけです。 まず第3・4前臼歯と下顎骨の境界である歯根膜がなくなってしまっています。第1後臼歯根分岐部遠心根(喉の奥側の歯のこと、写真でいうと右側の歯根)も歯の吸収が起きている為が象牙質が薄くなっており、レントゲンを撮ると透過性が強くなり黒っぽく見えます。 これは骨性癒着(アンキローシス)を起こしています。アンキローシスとは歯と骨の間に存在しているはずの歯根膜がなくなり、歯の根っこ(歯根)と骨(歯槽骨)が直接、結合している状態を云います。 歯根膜とは、歯と骨の間にあるクッションのような柔らかい組織で、歯と骨をつないだりしています。 この歯の病変は頬側にはなく舌側にありました。つまり無麻酔下での確認はほぼできません。麻酔下にてレントゲンを撮って処置前に初めてわかる病変になります。 本来ならば、こういう歯は痛みの原因になるため抜歯対象になるのですが、無症状で痛がる様子がなく、飼主の希望もあり抜歯はしていません。ただし、将来的には骨吸収とアンキローシスが進行し抜歯できなくなるので、歯冠切除という治療になります。 最近、問題になっている無麻酔下での歯石除去はこういった病変を見逃し、さらに進行させてしまうリスクを含んでいる為、推奨はしません。一応、獣医師以外が犬や猫の歯科処置をして対価を得る行為は違法になります。 歯の表面についた歯石だけでなく、見えない所まで検査・治療をすることが獣医師が施術する歯科処置になります。麻酔下での歯石除去は見た目や口臭の問題を改善するだけなく、歯肉縁下で起きている見えない病変や病巣を見つけることが出来ます。動物の場合、麻酔下でないと歯科用レントゲンが撮影できません。 因みに「犬の歯科衛生士」という言葉を勝手に作りだしている某団体がありますが、そのような公的資格は存在しません。歯磨きの仕方を飼主にレクチャーしたりすることは全く問題ありません。 |
2023.04.04 |
令和5年度狂犬病予防接種実施中
昨年と比べて降雪が平年よりも少なく、そして3月の気温も高く、平年よりも1か月以上早く暖かい春が到来しました。 今年は選挙と郵便の土曜日配達ならびに即日配達廃止の影響により、札幌市では狂犬病予防注射のお知らせ(封書)の到着がいつもより遅くなりました。その他の各市町村にはもう既に届いている事と思います。 毎年の事ですが、当院は札幌市小動物獣医師会は数年前に退会している影響で、封書の中にある狂犬病予防接種が受けられる病院リストには記載がありません。ただリストに載っていないだけで狂犬病予防接種の実施は普通に受けることができます。 予防接種でのご来院時にフィラリア予防やマダニ予防などの外部寄生虫への予防薬処方も行うことも可能です。また、ご希望があればフィラリア予防で採血をしての抗原検査が必要となりますが、それと併せて生化学検査(肝臓や腎臓、血糖値等の検査)の実施も可能です。 本年度の狂犬病予防注射接種もすでに可能となっておりますので、早めのご予約をお願いします。 注射料¥2690+注射打済票交付手数料¥700 = ¥3390 です。 札幌市以外にお住いの方には注射料¥2690のみとなります。 初めての接種する場合は、登録手数料¥3200が加算されますので、合計¥6590 です。 狂犬病は人獣共通感染症であることから、生後90日齢以上の犬を飼われる方は年1回の予防接種の義務が発生致します。(狂犬病予防法) ただし、各自治体に登録をしてないと狂犬病予防注射のお知らせは届きません。ですので、まだ登録をしていない場合は、札幌市であれば各区の担当課、または市内の病院にて登録を行うことが可能です。 予防注射の実施期間は、4月~6月末までとなっておりますが、あくまで集計上の問題ですので、それ以降でも接種は可能です。行政からはその期間に接種するように指示が来ていますが…。実施期間内に打たれている場合は、昨年と同じ時期で宜しいと思われます。 狂犬病予防注射は、飼主様から費用を一時お預かりして代行納入する行政管轄業務のためクレジットカードでのお支払いは出来ませんので、ご注意願います。 狂犬病予防接種時の注意点をいくつか載せますので、ご一読願います。 ①狂犬病と混合ワクチンの同時接種はできません。 狂犬病と混合ワクチンの同時接種でも抗体価はあがるようなのですが、アレルギーを起こしてしまった際に、どちらで反応してのかがわからない為、別々に接種することを強く推奨します。 ②体調が悪く、病気の治療中の場合は接種できません。回復するまで延期になります。 ③混合ワクチン(生ワクチン)を接種している場合、4週間以上離さないと狂犬病のワクチンは接種できません。狂犬病ワクチンを打ったあと、1週間以上離していただければ混合ワクチンの接種は可能です。 ④過去に狂犬病ワクチンにてアレルギーを起こしたことがある場合は避けた方がよいです。また、過去にアナフィラキシーショックを起こした場合は接種できません。 ⑤過去にてんかん発作(1年以内)を起こしている場合は、慎重投与になりますので必ず申告して下さい。 ⑥自己免疫性疾患治療の為に免疫抑制剤の投薬を行っている場合は、接種をお勧めしておりません。 当院は、狂犬病予防注射も予約制になっておりますので、事前にご予約をお願い致します。 予約外での接種も可能ですが、診察の合間に行う形になりますので待ち時間が発生いたします。4月~6月は診察時間に余裕がない場合が多々ありますので、その際は別の時間帯、または後日に予約を入れていただく形を取らさせていただきております。 何度もアナウンスしておりますが、札幌市からの委託業務先である札幌小動物獣医師会に当院は所属しておりません。その為、病院窓口での狂犬病予防注射の注射済票や鑑札票の即時発行が行えません。 予防注射は、平常通り接種可能です。 委任状に署名をいただく必要がありますので、狂犬病予防注射を接種する前の身体検査時に書類をお渡ししますので、ご記入をお願いします。後日、動物管理センターにて登録手続きの代行を行い、発行された注射済票を次回来院時の際に直接お渡し、または郵送いたします。 手続きまでに2〜3週間ほどかかりますので、会計時に予防注射証明書を発行しお渡し致します。 診察の際に、次回来院時に受け渡しをするか、郵送するかの確認をしますので、宜しくお願いします。 尚、12月以降は登録代行を行っておりませんので、飼主様が直接、各市町村の窓口にて手続きを行ってもらってください。また、証明書に実施日時と動物病院名・獣医師名が記載されておりますので、証明書は処分せず、そのまま保管してください。 後日、登録代行した再に返却された用紙には鑑札または注票番号のみが記載されます。併せて証明書となります。 ご協力の程、宜しくお願い致します。 |
2023.03.17 |
歯根破折
今回も歯科疾患に関すること話です。 前回は外観は異常がないのにレントゲンを撮ると歯周病が進行していて歯槽骨の骨吸収を起こしている症例を報告いたしました。 今回は、硬いオヤツは与えていないのにも関わらず歯が折れてしまった犬の話です。 犬の歯折と聞くと第一に上顎の第四前臼歯の平板破折が思いつくのですが、今回は下顎の第四前臼歯が折れてしまった症例です。 歯の破折に関して説明します。 歯の破折には、歯冠のみ、歯冠と歯根、歯根のみの場合とがあります。歯の破折を分類すると、以下の通りになります。 〇単純性破折は歯髄を含んでいない破折 この写真は典型的な破折です。分類は外観だけでは正確には把握できません。歯を温存するのであれば歯内治療が必要になります。歯内治療は難易度が高く、抜歯よりも労力や時間も大幅にかかり、そして治療費も高額になります。また、近年ではマイクロスコープを用いての精密根幹治療も一部施設では行われておりますが、マイクロスコープの歯科医院での普及率は10%未満です。 今回の症例は上顎の第四前臼歯は破折しておらず(上顎犬歯の水平単純破折あり)、右下顎の第四前臼歯だけが完全に根元から折れておりました。完全破折というものです。 写真を見ただけだと下顎の歯肉が一部腫れているくらいで、それ以外は一見するとわかりません。 ただ、歯をいじってみると・・・ 根元から歯が折れており、近心根(鼻側歯根)の一部が歯肉となんとかかろうじて付着していただけで、あとは完全に歯肉から外れておりました。折れたところは歯肉によりすでに被われてしまった状態なので、破折からある程度の時間が経過しているのがわかります。 どうして折れたのか?問診をする限り、非常に硬いものは与えていないが、ある程度の硬さのある歯磨きおもちゃは与えていたとのころ。ただし、かじっているとおもちゃはどんどん崩れていく形状のものとのことでした。ということは、破折の原因は外傷性なのか、破歯細胞性吸収が歯頸部で起こっていたのか、もしかすると下顎に腫瘍が出来ております骨吸収が起きた結果なのか等々を鑑別する必要が出てきます。やはり麻酔下での歯科レントゲンが必要になります。 健常な反対側のレントゲン写真です。歯冠・歯根共に綺麗です。 そして、先程、歯が完全破折してしまった部位のレントゲン写真です。丁度、歯頚部・歯根分岐部でパッキリ水平に折れてしまっています。歯根はしっかりとしており、下顎骨も異常がなさそうです。また破歯細胞性吸収病変とも違うようです。つまり、外圧により歯根破折した可能性が一番高そうという診断になりました。 診断がついたところでさっそく治療です。歯石除去を行い、口腔内を洗浄したとに残根の抜歯を行います。 歯肉を切開し、歯槽骨を露出しましたが歯根は見えないのでマイクロエンジンを使って歯の周りの骨を慎重に少しずつ削って残根歯を露出させます。残根の頭が出てきたらエレベーターを歯と骨の間に入れて少しずつ梃子の原理で歯根膜を切断し、歯を浮かせます。そして、歯を抜きます。 途中で折れることなく残根を取ることができました。拔いた穴を洗浄・エアーを使って確認し、異常がないことを確認したら粘膜を縫って創部を閉鎖します。 最後にレントゲンを撮影し、残痕がないか下顎に異常がないか確認して手術は終了となりました。 今回のような歯根部の破折はフレンチブルドッグ等の短頭種に比較的多く見られます。ただの亀裂の場合もあれば、ポッキリ折れてしまう場合もあり、口を開けての肉眼での視診だけでは評価は困難となります。噛むときに躊躇していたり、痛がっているという場合には、麻酔下での検査にはなりますが歯科用レントゲンにて確認することが必要になります。 以前は鎮静下にてDRを使って顎と歯根の状態をDRレントゲンで事前に撮影していましたが、大まかには全体像を把握することはできても、微妙な細かい所は判断が難しいのです。 せっかく麻酔をかけて行いますので、現在は予防歯科で処置をされる患者様には全て歯科レントゲン検査を実施しております。 |
2023.01.30 |
ひっそりと進行する隠れ歯周病
歯科処置を行う際、事前の検査(視診、歯周病原因菌酵素活性測定、無麻酔下レントゲン検査etc)だけでは判断することが出来なかったことが多々発生します。 歯科処置を行う際には「予防歯科のみ」と「歯周外科を含む」に分けて準備を行う必要があるのですが、ある程度の高齢の場合は隠れ歯周病が起きていることが多く、予防歯科のみの予定が歯周外科も必要になるという事案が頻発します。 今回は、事前の視診検査ではわからず、プロービング検査+歯科レントゲンで隠れ歯周病が見つかった症例を紹介します。 症例はMix犬 9歳、不妊手術済み雌。歯科処置は今回が初めてです。 予防歯科の場合は施術後に異常があった場合のみ、レントゲン写真を撮ります。 歯石除去-ポリッシング剤研磨-濯ぎ後に撮影した写真です。 上の写真は実際の歯周ポケットの深さ・範囲を黄色線で分かりやすくしてみました。 先ほどの箇所を歯科用レントゲンで撮影したものです。黄色い円の中に注目。 歯周病治療は、発見した場合、可能な限り早期に行わないと歯石除去だけでは治療法が難しくなり、最終的に抜歯になります。 特に中等度~重度歯周炎に罹患した場合、歯周病の原因である歯石は歯根の深い位置に付着しているため外から取り除くことは不可能になります。これを取り除くために歯肉を切開して歯根に付着している歯石を目視できる状態にして取り除き、炎症のため凸凹になった歯槽骨を平らにして原因の除去を行い、炎症の進行を止める必要があります。 今回、見た目は酷くないのに実は歯周病が隠れて静かに進行しているという事がすごくわかる症例がいましたので、ブログで報告してみました。 動物の場合、しっかりとした歯科処置を行うには全身麻酔下になってしまう為、どうしても費用が高額になってしまいます。しかしながら、歯周外科を行う場合と予防歯科とでは価格が2倍以上違いますので、歯周病がひどくなる前に予防歯科処置を行う方が最終的には費用が安く抑えられます。かつ口臭も軽減されます。 歯科処置をした後に、皆さんに言われることが「こんなに口臭がしないものなのですね!」です。 歯石が気になるのでどうしうようかなと悩まれている方の参考になれば幸いです。 |
2023.01.22 |
2023年2月1日より商品の価格改定が行われます
昨年7月に引き続き商品の価格改定が2月に行われます。 昨年7月の価格改定はロシアによるウクライナ進行に伴う原材料費・燃料費の著しい高騰によるものでしたが、今回のは昨年の為替相場による影響+現在も続く原材料・輸送費の高騰による影響、世界的需要過多によるものが反映されます。 世界最大市場である米国におけるFRBによる金利の引き締めの影響で、かの国でのインフレが少しずつ落ち着き始め、価格高騰も今年の後半には徐々に落ち着くと考えられておりますが、一度値上がりしてしまったものは下がらないというのが何とも世知辛いです。 昨年3〜5月、7月に動物薬品や食事療法食が原材料・燃料コスト増等の理由により価格改定が行われましたが、今年も2/1にも再び価格改定が行われる旨の通知が届きました。昨年にお知らせが来ていたのですが、年末年始の影響で告知が遅れてしまいました。 2023年2月1日から値上がりするメーカー名と値上がり率: ・ロイヤルカナン一部製品を除く全製品: 8〜19% 当院では原産国変更による問題や度重なる製品の値上げにより代替品がある場合は他社への切り替えを行っており、それほど取り扱い商品が多いわけではありませんが、アレルギー疾患系フードに関してはR社が唯一無二で専売な為、その商品を購入していいただいている皆様には毎回ご不便・ご負担を強いる形になり誠に心苦しい限りです。 もし、R社の専用サイトからでないと購入できない商品でないのであれば、amazonやヨドバシ.com等の通販サイトで病院販売価格よりも10〜20%安い値段で購入できるので、経済的に厳しい場合は、そちらを利用していただければと思います。 ただし、現在継続して購入している商品に限りという前提があります。 フード以外にも予防関連製品や医薬品、医療消耗品関等も軒並み値上がりしており、影響を受けております。大半は変更がありませんが、猫ワクチンと血液検査費の一部、手術費の改定を2023年1月から実施させていただきました。 ご不便をおかけいたしますが、ご理解の程、宜しくお願い致します。 ACフロンティア 院長 |